派遣報告

京都府近代五種・バイアスロン連合

梅原 弘史

はじめに

 ユニバーシアード冬季大会(インスブルック/2005)について、日本近代五種・バイアスロン連合の推薦に基づくJOCよりの委嘱を受け、陸上自衛隊冬季戦技教育隊の役員・選手4名と共に、京都府連合より梅原が参加してまいりました。

 冬季戦技教育隊所属の選手達は、W杯の転戦など日々世界と鎬を削り、我が国のトップ選手として活躍しておられます。一方、我が京都府連合をはじめとする各府県連の選手も、近年着々と競技レベルが向上しており、いずれはこれら選手を脅かすような、そんな選手を一人でも多く輩出したいものです。また一方で、競技スポーツを取りまく環境も大きく変革の時期を迎えており、トップ選手の競技力向上と共に、子どもたちや多様な層の参画による競技自体の裾野の拡大や、社会との関わりなども大きな課題となりつつあります。

バイアスロン競技の更なる発展に向けては、選手の発掘から育成、トップ選手の国際競技力の強化に至るまで、一貫したシステムのもと実施することが不可欠であり、そのためには、冬季戦技教育隊と各府県連が手を携え、局所にとどまらない全国規模での総合的な活動につなげていくことが重要であると考えます。

 国際総合大会はまさに様々な国の様々な選手、様々なシステムに触れられるまたとない機会であり、さらにこのような場において、自衛隊の人間と府県連の人間が共に活動し、意見を交わすことは非常に有意義であるといえます。また、経験から多くのことを吸収し、各府県連のレベル向上にもつなげられるよう、微力ながら任を果たさせて頂きたいと思います。

なお、派遣にご助力頂きました日本連合及び京都府連合の皆様、大会期間中に大変お世話になりました風間監督を始めとする冬季戦技教育隊の皆様には、深く御礼申し上げます。

以下については、ユニバーシアード冬季大会(インスブルック/2005)の公式報告書の原稿をもとに、本大会を報告致します。加筆しております関係上、JOC発行の公式報告書の文面とは一部異なりますこと、あらかじめご了承下さい。

大会名:ユニバーシアード冬季大会(インスブルック/2005

派遣先:オーストリア・インスブルック(競技会場:ホッフィルツェン)

期間:平成17年1月8日〜1月24日

構成:風間淳(監督)、遠山立春、梅原弘史(コーチ)、畠山和、三好孝文(選手)

<競技報告>

1 前回ユニバ大会後の重点強化策

 ユニバーシアード冬季大会へのバイアスロンチームの参加は、ムジュ・チンジュ(1997)、ザコパネ(2001)、タルヴィジオ(2003)に続き、4回目となる。今大会に向けては、日本近代五種・バイアスロン連合よりのサポートを頂きながら、候補選手の所属先である陸上自衛隊冬季戦技教育隊を中心に、選手強化を行った。

 前回大会に出場した選手が全員卒業したため、今大会に向けては、一からの選手育成・強化を行うこととなった。国内各連合所属の学生選手の競技力の底上げを図るとともに、大会成績の抜本的な向上を目指し、クロスカントリースキー選手でインカレ等の上位選手を新たに候補選手として獲得した。短い強化期間ではあったが、大会を見据え、走力の更なるベースアップを図るとともに、射撃の基本動作、命中率などの練度向上を目指した。

2 選手選考の経過と大会対策

 今回は大学卒業1年以内の者を選考の対象とし、前回大会の反省も踏まえ、特に走力を重視する観点から、インカレ等のクロスカントリースキー競技の上位入賞者で、今年度に自衛隊に入隊した者を候補選手として選抜し、その中で更に射撃能力等を考慮し、最終的に畠山和選手(東洋大学卒)と三好孝文選手(龍谷大学卒)の2名を代表選手として選考した。

 大会に向けて、走力についてはシーズン早期からの強化トレーニングを実施し、特に10月下旬から北海道美瑛町の十勝岳周辺及び旭岳クロスカントリースキーコースで十分な走り込みを行った。また、事前合宿をバイアスロンのヨーロッパカップ等が開催されるイタリアのリドナーで行い、標高1500mの高地で走力強化を図った。射撃については、基本動作の徹底した反復トレーニング及び不整地での射撃姿勢トレーニングを行い、姿勢の安定を図った。また、実戦の激動時を想定した心拍数での射撃トレーニングを行い、個々の弾痕の癖の把握や命中率の向上に努めた。

 今回の代表選手は強化期間が短く、大会経験が少ないため、事前になるべく多くの競技会に参加させ、走と射の融合したスムーズな試合運びを体得させた。特にインスブルック・ユニバーシアード冬季大会直前にドイツのガルミッシュ・パルテンキルヘンで行われたヨーロッパカップ第5戦に出場させ、大会前の仕上がりを確認させた。また、今大会の会場(ホッフィルツェン)はワールドカップ等を何回も開催している場所であり、日本チームでも射場及びコース状況等の概要を把握していたため、事前に本番を想定した走力トレーニングや射撃トレーニング、射座への進入要領の確認等を行うことが出来た。

3 現地でのコンデショニング

 日本チームは、19日にカナダ・ウクライナに続いて3番目に現地入りした。その時点では、まだクロスカントリーコースも射場も準備中であり、翌10日になっても射撃練習は出来なかったが、スキートレーニングを行うことができ、コース状況の確認などを行った。11日から非公式トレーニングが始まり、続々と慌しく他国の選手たちが競技会場に入って来る中、日本チームの選手2名は集中して現地での射撃の最終調整や走力トレーニングを行うことが出来た。

 図:選手のコンディショニング

 図:働く梅原@(風間塾見習い)

 図:働く梅原A(遠山塾見習い)

4 各種目の試合経過と戦評

20kmインディビデュアル

114日(金)1000開始

天候: 雪、気温:−3.0度、雪温:−2.0度、湿度:75%、エントリー数:47

 最初の種目である20kmインディビデュアルが行われた。競技内容は4km×5周を回る間に伏射・立射と交互に4回の射撃を行い、一回の射撃毎に5発を撃つ。20Kmの走行タイムと外した的数(1個的に対し1分)を加算した合計タイムで争われる。

 日本チームの最初のスタートはゼッケン24番の畠山和選手。気持ちも高ぶっており元気よくスタートした。1回目の伏射はペナルティ1と幸先良いスタートであったが、続く立射をペナルティ2、さらに2回目の伏射がペナルティ3、最後の立射もペナルティ3で合計9分の加算タイムとなり、トータル1時間1848833位であった。続く三好孝文選手はゼッケン38番でスタート。「前半から飛ばして行け」という遠山コーチのアドバイス通りに積極的に飛ばして行ったが、最初の伏射でペナルティ4を出してしまった。しかし、続く立射、伏射ともにペナルティ1で抑え、徐々に順位を上げていったが、最後の立射がペナルティ3で合計9分の加算タイムとなり、トータル1時間1610127位であった。両選手とも雪の降る中の競技は初めてであり、的が見えづらかったこともあり、本来の射撃が出来ていなかった。射撃経験不足が出た試合であったといえる。

 図:畠山選手の射撃

10kmスプリント

116日(日)1000開始

天候:晴れ、気温:−15.0度、雪温:−13.0度、湿度:70%、エントリー数:54

 2つめの種目である10kmスプリントが行われた。競技内容は3.3km×3周を回る間に伏射・立射と2回の射撃があり、一回の射撃毎に5発を撃つ。外した的数分のペナルティーコース(1個的外す毎に150m)を周回し、総合タイムで争われる。

 この日は片岡団長がインスブルックより応援に駆けつけて頂き、選手の士気も高まる中、まずゼッケン22番の三好選手が元気よくスタートした。最初の伏射でペナルティ3を出し、ペナルティコースを回っている間に後続の選手に先行されたが、持ち前の走力で必死に追い上げた。しかし続く立射でもペナルティ2を出し、その差をさらに広げてしまった。結果は3151140位であった。次にゼッケン43番の畠山選手がスタート。前半から積極的に飛ばし、ラップタイムがトップから約15秒遅れの56番手で最初の伏射に進入して来た。最初の1発・2発と命中していたが、345発と連続で外してしまい、結局ペナルティ3であった。ペナルティコースを回っている間に一度抜いた前の選手が先に本コースに戻り、また追う形となった。続く立射もペナルティ3を出し、走力ではかなり良い走りをしていたものの、合計6のペナルティが響き、結果は3040831位で惜しくも個人ポイント(30位以内)を獲得することが出来なった。

 図:三好選手の射撃

12.5kmパシュート

117日(月)1100開始

天候:晴れ、気温:−4.0度、雪温:−11.0度、湿度:60%、エントリー数:50

 3つめの種目である12.5kmパシュートが行われた。競技内容は前日の10kmスプリントの競技結果のタイム差でトップから順にスタートし、2.5km×5周を回る間に伏射・伏射・立射・立射と4回の射撃があり、一回の射撃毎に5発を撃つ。外した的数分のペナルティーコース(1個的外す毎に150m)を周回し、ゴール順で争われる。

 ゼッケン1番(昨日のトップ)の選手がスタートしてから、まず5分遅れでゼッケン30番の畠山選手、続いて6分遅れでゼッケン39番の三好選手がスタートした。両選手とも、前の選手を追い越し、それぞれ28番手、38番手と順位を上げて最初の伏射に進入したものの、射撃前の呼吸調整段階で思ったより心拍数が落ちず、射撃に影響した。畠山選手はペナルティ3、三好選手はペナルティ2と、ペナルティコースの周回を終えコースに復帰したときには大きく後退してしまった。その後畠山選手は、粘り強い走りで前の選手を追い順位を上げるも射撃が思うように当たらず、結果35位に後退した。三好選手は、次の伏射・立射をペナルティ1とまとめ一時33番手まで順位を上げたが、最後の立射でペナルティ4を出し、結果39位となった。両選手とも走・射がうまくかみ合わなかった試合であった。

 図:畠山選手の力走

15kmマススタート

119日(水)1000開始

天候:雪、気温:−4.0度、雪温:−3.0度、 湿度:76%、エントリー数:30

 4つめの種目である15kmマススタートが行われた。競技は前日までに行われた20kmインディビデュアル、10kmスプリント、12.5kmパシュートの個人総合ポイントを合計し、上位30名により行われる。3km×5周を回る間に伏射・伏射・立射・立射と4回の射撃があり、一回の射撃に5発を撃つ。外した的数分のペナルティーコース(1個的外す毎に150m)を周回し、ゴール順で争われる。

 日本チームは三好選手が20kmインディビデュアルでポイントを獲得しており、繰り上げであったが出場権を獲得した。スタートは横10名、縦3列の30名の一斉スタートであり、三好選手は3列目後方よりのスタートであったが、最初の走りで徐々に順位を上げ、10番手争い集団後方の20番手で最初の伏射に進入した。しかし最初の伏射でペナルティ3を出し、本コースに戻った時には28番手と大きく順位を下げてしまった。持ち前の走力で2人を抜き26番手で2回目の伏射に進入してきたが、またもやペナルティ4と射撃のミスが出た。その後も走力で追い上げるものの、射撃で後退を繰り返し、最終的には26位でのゴールとなった。

 図:三好選手の力走(後方右端)

 図:表彰式の風景

5 競技の総評と反省

 今大会に向けては、選手の強化期間が短かったこともあり、走力強化を重点に取り組み、射撃をカバーして上位を狙ったが、やはり全体的に走力と射撃とが上手くかみ合わず、期待したような結果は出なかった。しかし、今回の選手は、走力では上位選手とも十分に渡り合っていたほか、射撃でも短いトレーニング期間にもかかわらず、積極的なレース運びを行っており、常に上位の可能性もあり手に汗握る大会であった。彼らのバイアスロン選手としてのキャリアは始まったばかりであり、今大会の経験を糧に、今後の更なる飛躍を期待したい。

 バイアスロン競技において、今後日本が強豪国の選手たちとの差を縮めていくためには、選手強化の体系的な実施とともに、競技の裾野の拡大など、環境整備面でも取り組むべき課題は多い。北欧・ヨーロッパ等の選手がジュニア期から射撃競技に親しみ、トレーニングを積んできているのに比べ、日本では銃の所持許可取得の条件のほか、ジュニア期及び学生期のトレーニング環境が整っていない。今後はそのような点について克服するとともに、大会に向けては、走力・射撃ともにバランスの取れた選手強化を行っていかなければならない。

 最後に、遠路はるばるインスブルックより激励に駆けつけて頂いた片岡団長はじめ、出発前から多大な調整にご尽力頂いた本部の皆様に厚く御礼を申し上げるとともに、今後益々選手育成に努め、更なる向上を目指すことをここに約束し、今大会の総評としたい。

 図:日本代表選手団の集合写真

(後列左から2人目が片岡団長)

<選手村の生活>

 バイアスロン日本チームは、前回大会に続き、選手団本隊から離れたホッフィルツェンに選手・役員5名のみの滞在となった。同じホテルには日本のほか、ウクライナ・フインランド・韓国が滞在した。

 そのホテルは、風間監督がかつて12年前にワールドカップに参加した際にも宿泊したところであり、良くも悪くもほとんど昔のままであったとのこと。部屋は狭く2段ベットであり、トイレもシャワーもフロアー共同でテレビも電話も無く、水道も初めは赤い水が出る(水道管が錆びている)状況であった。また、大会運営面でもアバウトな部分が多く、会場までのバスは時間通りに来ないことがほとんどであったし、待てども来ないこともあった。ただ宿のおかみさんはじめ現地の人々の素朴な優しさには、多分に和まされたように思う。

 日々を重ねるうちに徐々にそのような生活にも慣れ、お互いの言葉で他のチームやボランティアスタッフとのコミュニケーションを図り、食堂の片隅にあるサッカーゲームで国対抗戦を行ったり、会場までのバスが来ないときには車に便乗させてもらったりした。選手たちもパーティーに参加したりと、若い選手どうし他国の選手達とも非常によく打ち解けていたようである。

 何より皆様のサポートにより、チーム一同、健康で無事に競技日程を終了できたことについてここに感謝したい。

 図:ホッフィルツェンでの滞在先

 図:コーチ部屋は2段ベッド

 図:食事の様子(ホッフィルツェン)

(参考)日本代表選手団バイアスロンチーム名簿






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