「コシヒカリ便り」                平成15年9月

 少し遅れた記憶は有りますが、大凶作と言われた平成5年の秋でも彼岸花が咲き揃って、季節の移ろいに感じ入ったものです。所が今年は彼岸の頃には全く見掛けず、ようやく25日過ぎから出始めて、この満開の写真は川の堤の北斜面で10月4日に撮しましたが、直ぐ近くの南側の斜面ではまだ出雷したばかり。場所によっては既に枯れ始めています。こんなにバラバラな年は覚えが有りません。

  米の収穫が例年より10日余り遅れて9月初旬から始まり、月末には殆どの田から稲の姿が消えました。10月上旬のこの時期に、稲刈りをしている農家はそう多くありません。とりわけ早稲品種のコシヒカリを9月末に刈り取るのは、この辺りでは私だけでしょう。今年の稲作は、収穫期を迎えてその実体が明らかになるにつれ、「こんな年は、長年百姓しているが記憶にない」という、年輩の農家の声をお伝えすればおわかり頂けるかと思います。

 とりわけ山手の農家がイモチ病で収穫を落としています。3反で6俵の米と7俵の屑米と言われた農家のご主人。噂では3反で3俵と言う話もあります。1町4反で50俵の減収と言われた方も有りました。毎年買って貰っているから責任があると、別の農家から40俵のコシヒカリを手当てされた話も聞きました。

 何が原因なのか、最初は解りませんでした。それほど原因のつかみにくい不作だったのです。土造りの肥料や堆肥を全く施用していない田に被害が広がった事は確かです。しかし、毎年頑張って耕土培養資材を入れている農家の中にも大凶作の家が有ったり、逆に何もしなかった家が豊作だったと言う話が聞こえて来て、さて自分の田の収穫に入ってようやく原因が分かりました。

 3反歩の田が3枚続きになっている所を作らせて貰っていますが、穂肥をやりに行ってずいぶんと辛抱して遅らせたのにまだ葉の色が落ちていず、思案に思案して、東端の方から肥料を撒くのに最初の一回だけは普通に入れたのですが、何としても気になって次から半分に減らしました。天候が回復すれば葉色も落ちるから、改めて撒けば良いだろうと自分に言い聞かせて。

 これが8月中旬です。普通なら遅くとも7月中旬に入れる肥料をここまで辛抱し、量も減らして正解でした。東端の例年通りの量を入れた部分は、軽く済んではいますがイモチ病の気配。穂の色が冴えません。これが、幾ら何でもそんなに雨が降り続く訳はないと思って、普通に穂肥を入れた農家ほど結果的に不作した原因かと思われます。時期を考え量を減らすのは実は勇気の要る決断なのです。

 米1俵を収穫するのに、窒素成分で1sの肥料が必要と言われています。通常植え付け前の元肥には窒素成分で2〜3s入れますから、穂肥に5s近く入れないと8俵の平年作は難しいのです。勿論地力も有りますしこの全量が肥料として散布される必要は有りませんが、私の穂肥は今年は1、2sしか入っていなかったもので。

 平年作は難しい様ですが、何とか1年間お送り出来るだけの米は収穫出来そうです。殆どの米を籾で保管するため収量は正確には分かりませんし、ご注文頂く方も毎年少しずつ変動が有りますので、来年の8月にはまた手持ちの米が無くなりましたと、新米をお待ち願うことになるかも知れませんが。
inserted by FC2 system