平成2年 1990年 10月
  地球の温暖化が言われて久しく、ここ数年の雪の降り具合や今夏の猛暑を考えると、残念ながらそれも当たっているかも知れないと思われます。コシヒカリに限らず一般に、米は東南アジア原産だから暑い程良いと思われがちですが、今年の様に暑いと先ず根が傷み、稲の方も暑さに対する防御反応でしょうか、モミガラが厚くなってしまいます。従って収穫も今一つと言った所になりがちです。しかも一番味が良いのは、気温25度位というデータも有ります。果たして今年の米の出来はどうで.しょうか。
 さて、今年の稲作は5月、6月の好天で、どちらかと言えば一般に出来過ぎに経過しました。私の様に1〜3本位の苗を、誰もが笑うくらいに広く粗く植えている者には、大きな影響は無かったのですが、余り晴天が続いて紫外線が強いと、背丈は短め株は大きく成るというのが一般的です。
 一週間位は生育が進み、例年よりも出穂が早かったのですが、収穫もやはり早まって8月下旬から9月上旬には、連休前後に植えたコシヒカリの収穫が始まりました。我家は毎年5月15日過ぎに植え始めますので、収穫は9月10日〜15日頃と踏んでいました。10〜13日の間、御殿場の国立青年の家で行われている、来年度派遣の海外派遣農業研修生の渡航前講習に出席し、まあその後でポチポチと考えていたのです。この講習に近畿・東海・北陸地区の講習所長として参加するのは、20年来の年中行事で、昨年からはアメリカ派遣だけでなく、ヨーロッパやカナダ、ハワイも加わり、女子の研修生も一緒に講習をしています。
 夏は勿論そうでしたが、講習中も素晴らしい上天気続きで、昨年は一度も富士山が見えなかったのに、今年は160人余りの21歳前後の後輩の研修生と、富士の5台目まで登山した位でした。13日には御殿場も昼過ぎから雨でしたが、まさかこれが1週間も続くとは思えませんでした。
 生憎と秋雨前線を台風19号が刺激をしながらゆっくりと北上し、予想以上に雨を降らせたお陰で、被害こそ余り出しませんでしたが、19日の夜は消防団を指揮し、(その後、10月1日付けで団長に昇任しました)
徹夜で河川の警戒をし、20日には崩れた川岸の補修に走り回りました。
 一番遅い田は10月になって収穫しましたが、幸い大して倒伏していなかったせいもあり、皆が騒いでいるような穂発芽も無く、収量も例年並かむしろ少し良いくらいです。もっとも昨年から、収穫し乾燥の済んだモミはそのまま貯蔵していますので、はっきりした収量は分りませんが。
  キヌヒカリという品種が最近評判になっています。愛知県で育成されたコシヒカリ系統の、少し短く丈夫で作りやすい上に美味しいとの事で、今年は私も2反程作ってみました。どんな味の米なのか、楽しみにしています。収穫はコシヒカリの3〜4日後になります。
 正直な所、今年の新米が旨いのかどうか良く分りません。夏の晴天少雨が原因で水分不足の為と思われる、自太(シラタ)と呼んでいる自濁した部分を含んだ米も、例年よりも少し多いようです。実際自分で食べて見ての感想でも、実は昨年から全面的にモミのままで貯蔵しているため、夏の間の品質低下が少なく、お陰で以前の様に「ウーン、やっぱり新米や〜。百姓していて良かったな〜」という感激が、少なくなっています。今年の出来具合はどうだったのか。答はお食べ戴いて、それぞれで出して貰った方が艮いのかも知れません。
 生産者から消費者に直接米を送るのは、現在の食糧管理法(私と同じで昭和17年生れの、米が供出されていた時代の物ですが)では、実は違反になります。所で3年前から「無農薬・有機栽培など、特別な方法で栽培された米」については、これが許される事になりました。食糧事務所長が許可を出すのですが、私の栽培方法で適合するかどうか田植え前に尋ねに行きましたが、収穫した米を検査して貰わねばならず、その為にはモミで貯蔵していたのでは、到底無理と分り諦めました。そのおりに食糧事務所で聞いた話では、昨年は滋賀県で1件だけ申請があって許可も出ている様です。今年、何件か問合わせが有るとの事でしたが、どうも聞いて見ると、とても「特別な方法で栽培された米」とは言えない様な農家の物も有り、(私が肥料を納めていて内情を知っています)これで許可が貰えれば、サギ見たいな物だとさえ思いました。
 アメリカで現在整備が進んでいる、「無農薬・有機栽培」の基準では立入り検査が有り、過去3年間以上に渡る無農薬・有機栽培の歴史が必要で、しかも違反者には罰則まで有ると言う厳しい物です。私も除草剤1回以外は一切の農薬を使わず、完熟醗酵堆肥や天然有機貝化石、微生物入りの有機質肥料に骨粉を投入し、土造りに心掛けて来ました。
 肥料商・百姓としての良心と意地を掛けて、無農薬・有機栽培米を始めて4年間の実績も有りますので、「特栽米」のお墨付きにはこだわらず、来年こそは天候に恵まれてより旨い米を作ってやろうと、今から準備を進めています。今後とも何卒宜しくお願いします。
 
 
 

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